卒業研究成果の紹介(5回目)2017年03月26日

5回目は、白戸遼司君による「北海道寿都漁港周辺のガラモ場に生息する稚魚類の食性に関する研究」です。

【目的】
 ホンダワラ類を主体とした海藻群落によって形成されるガラモ場は,魚類に対して葉上に生息する小動物を餌料として供給する餌場機能や,藻体が創り出す複雑な立体構造により捕食者からの逃避場所を提供する隠れ場機能を有しており,水産資源を含む海産魚介類の成育場として重要な役割を果たしている。このため,北海道では,魚類の産卵・成育場整備を目的としたガラモ場造成技術開発が進められ,これまでに造成適地の選定手法やフシスジモクの着生に適した基質条件が明らかにされてきた。一方,ガラモ場の生態学的機能については,カサゴ目稚仔魚の成育場としての役割に関する研究が国内外で行われているが,多種で構成される魚類群集が各々の生活史の中でガラモ場の資源をどのように利用しているのかといった資源利用の実態,とりわけ餌料をめぐる種間・種内競争や資源分割といった群集生態学的な視点での研究についてはほとんど行われていない。そこで,本研究では,北海道日本海南西部に位置する寿都漁港周辺のガラモ場を対象として,稚魚類の食性を解析するとともに,ガラモ場に生息している葉上動物との関係を検討した。

【材料と方法】
 北海道寿都漁港の外郭施設周辺に形成されているガラモ場を対象に,2016年2月,3月,5月,6月,7月,9月および11月の計7回,地曳網による魚類採集を行った。採集した魚類の全長,湿重量,消化管重量および胃内容物重量を計測した後,胃内容物を実体顕微鏡下で科のレベルまで同定するとともに,科ごとに個体数および湿重量を計測した。

【結果と考察】
 本研究では調査期間を通してシロサケ,ウグイ,ハナジロガジおよびチカを含む22種653個体の稚魚類が採集された。このうち,各月で最も採集された魚種は2月がサケ,5月がカズナギ,6月がハナジロガジ,7月がウグイ,9月チカおよび11月がアゴハゼであった。そこで各月において胃内容物が未消化物として検出された10魚種について食性解析を行った。胃内容物中に出現した科別の餌生物について相対的な重要度を表す相対重要度指数IRIを算出した後,IRIを基にクラスター分析を行った結果,ハルパクチクス目のカイアシ類を主食していたグループ,タナイス科の一種を主食していたグループおよびドロクダムシ科の一種を主食していたグループに区分された。また,肥満度CFおよび胃内容物重量指数SCI を算出した結果,カズナギにおいて時間経過に伴う肥満度の上昇と満腹度の低下がみられた。さらに選択性指数E*を算出した結果,カズナギは選択的に好みの餌生物を摂食しつつも,環境中に多産する餌生物も摂食していることが示された。以上の結果から,カズナギなどの周年定住種はウミタナゴなどの季節定住種の出現によって餌をめぐる競争が生じた結果,十分に摂食できなくなり,満腹度が低下したものと推察された。また,タナイス科の一種は繁殖期の6月~7月に,雄が離巣することによって稚魚に捕食されやすくなっていることが示唆された。今後は,周年定住種と季節定住種の餌生物をめぐる競争関係の詳細を明らかにすることが必要である。


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