卒業研究成果の紹介(4回目)2017年03月23日

4回目は、松ヶ崎光悦君による「北海道寿都湾におけるホタテガイ養殖場の環境評価に関する研究Ⅱ」です。

【目的】海面養殖業では,飼育個体の残餌や排泄物に起因した有機物負荷により底層の貧酸素化や硫化水素の発生が問題視されている。北海道寿都湾ではホタテガイ養殖の開始から2014年までの約50年間,底質環境に関する調査は行われてこなかったが, 2015年夏季に養殖場内外において底質性状とマクロベントス群集の比較が実施され,底質環境の劣化が認められないことが示されたところである。そこで,本研究では,昨年度に引き続き当該海域において底質環境の調査を実施し,経年変化の観点から環境評価を行った。

【材料と方法】2016年9月16日に北海道寿都湾のホタテガイ養殖場において,底質およびマクロベントスの採集を行った。養殖場内の水深20~35mおよび養殖場外の水深25~40mの範囲に5m間隔で計8地点を設定し,スミス・マッキンタイヤー型採泥器を用いて,1地点当たり2回の採泥を行った。採集した底泥から底質分析用試料を採取した後,残りを篩に掛け,残留物を5%ホルマリン海水で固定した。その後,マクロベントス群集構造を解析するため,地点間の類似度指数としてBray-Curtis指数を算出し,この値に基づいたMountfordの平均連結法によるクラスター分析を行ったほか,Shannon-Weaner関数による多様度指数H’ を求めた。底質分析用試料については,有機物量の指標として強熱減量を分析するとともに,ふるい分け法により中央粒径,淘汰度および泥分率を算出した。また,H2S検知管を用いて酸揮発性硫化物量を計測した。さらに,各調査地点の理化学的性状と地形的特徴の関係を検討するため主成分分析を行った。

【結果と考察】強熱減量は,養殖場内では3.1~4.8%,養殖場外では3.2~6.1%の範囲にあり,水深25mでは養殖場外が有意に高く,水深30mと35mでは養殖場内が有意に高かった。また,昨年度との同地点における比較では,本年度は養殖場内の水深35mの値が昨年度に比べて有意に低かった。酸揮発性硫化物量は,全地点において検出されなかった。中央粒径は,養殖場内では0.11~0.17mm,養殖場外では0.09~0.14mmの範囲にあり,養殖場内の中央粒径が養殖場外の値に比べて高いことが示された。淘汰度は,養殖場内では0.58~0.72,養殖場外では0.60~0.81の範囲にあり,昨年度および本年度とも,養殖場外の淘汰度が養殖場内の値に比べて高いことが示された。泥分率は,養殖場内では1.5~5.5%,養殖場外では4.4~9.5%の範囲にあり,昨年度および本年度とも養殖場外の泥分率が養殖場内に比べて高いことが示された。各調査地点の中央粒径,淘汰度,強熱減量,距岸距離および水深を用いて主成分分析を行った結果,養殖場内は強い流動と遠い距岸距離,養殖場外は弱い流動と近い距岸距離で特徴付けられた。一方,マクロベントスは5動物門38種採集され,汚染指標種は確認されなかった。また,クラスター解析により区分された二枚貝および多毛類を主体とする2つの群集は,それぞれ湾口部の沿岸流の影響を受ける地点および湾奥部の静穏な環境下にある地点に含まれるとともに,群集構造は流動の年変動の影響を受けることが示唆された。