卒業研究成果の紹介(8回目)2017年04月11日

8回目は、笹栗朋華さんによる「北海道苫小牧におけるウバガイの生殖周期の年変化に関する研究」です。

【目的】
 北海道苫小牧は国内第1位のウバガイ漁獲量を誇っているが,本種の推定資源量は1994年をピークに減少傾向にある。また,当海域ではウバガイの次期加入群の資源量も減少しており,漁業者は不安を抱いている。こうしたウバガイの資源量減少の主な原因として,浮遊幼生や底生稚貝の生残率低下に加えて,親貝の成熟や放卵・放精に何らかの問題が生じている可能性が疑われる。そこで,本研究では苫小牧沿岸に生息するウバガイの生殖巣発達過程を3年間にわたって調べ,その年変化と当年貝の発生状況の関係を検討した。

【材料と方法】
 2014年4月~2015年9月および2016年3月~9月に苫小牧西部海域において月に1回,殻長90mm以上のウバガイを操業用桁曳網で採集した。採集した30個体から生殖巣と内臓塊を取り出し,それらを合わせた重量を生殖巣重量として生殖巣指数を算出した。切り出した生殖巣をパラフィン包埋し,厚さ6μmの組織切片を作成した後,マイヤーの酸性ヘマラウランとエオシンで二重染色を施すことにより生殖巣の発達過程の組織学的観察を行った。

【結果】
 ウバガイ生殖細胞の分類に準じて,生殖巣発達過程を回復期,成長前期,成長後期,成熟期,放出期および放出終了期の6段階に区分した結果,2014年および2016年の放出期は雌雄ともにそれぞれ6月~7月および5月~7月に認められたが,2015年の放出期は雌が5月~7月,雄が4~7月に確認された。また,生殖巣指数は,2014年は雌雄ともに5月にピークに達したが,2015年は雄が4月,雌が5月にピークとなったほか,2016年は雌雄とも4月にピークを迎えたが,雌のピーク値は同年の雄や他の年に比べて低い値となった。

【考察】
 本研究の結果,2014年,2015年および2016年においてウバガイの生殖巣発達過程には差異がみられ,2014年と2016年は雌雄の成熟期と放出期が一致したが,2015年は雄が雌より約1か月早く成熟するとともに,放精を行っていた。また,2016年はピーク時における雌の生殖巣指数が同年の雄や他の年より低い値を示した。これらのことから,2014年は雌雄の放卵・放精が同調し,受精に支障が出なかったこと,2015年は雌雄の放卵・放精が同調する期間の短縮により受精の機会が低下したこと,2016年は雌の産卵量減少に伴って受精卵の量が減ったことが示唆された。さらに,今回の採集場所近傍で調査したウバガイ当年発生貝の分布密度をみると,2014年は当年貝の発生が比較的高い水準で確認されたのに対し,2015年と2016年は当年貝がほとんど採集されず,本研究の結果から推測される2014年の受精機会の増加と2015年および2016年の受精機会の低下に対して矛盾しないことから,当該海域におけるウバガイの稚貝発生量の年変動には親貝の生殖周期や生殖巣指数の値の年変化が影響している可能性が示唆された。