卒業研究成果の紹介(6回目)2017年03月28日

6回目は、中川雄太君による「北海道朱太川河口に生息する稚魚類の食性に関する研究」です。

【目的】
 河口域は河川水の流入と海水の溯上に伴う塩分濃度の変化や砂泥供給により特異的な環境を形成することから、河口域に生息する生物は、塩分変化や地形と密接な関係を持つと考えられている。また、河口域は水産上有用な海産魚類や遡河回遊性魚類が生活史初期を過ごす成育場として機能している。稚魚類が河口域を成育場として利用することで得られる利点は、捕食者が少ないことによる高生残と豊富な食物供給による高成長の2点であり、仙台湾名取川河口域や櫛田川河口域では稚魚類の食性が報告されている。しかし、北海道を含む亜寒帯地方の河口域では稚魚類の食性に関する知見はほとんどない。そこで、本研究では、北海道日本海南西部に位置する寿都朱太川河口域を対象として、稚魚類の食性解析をするとともに、隣接するガラモ場における稚魚との比較を行った。

【材料と方法】
 2016年6月,7月,8月および9月の計4回、北海道日本海南西部沿岸に面する寿都町を流れる朱太川河口域において地曳網を用いて稚魚の採集を行った。採集された稚魚を同定した後,全長および体重(湿重量)を計測した。その後、消化管を摘出し,重量を計測後,胃内容物を実体顕微鏡下で科のレベルまで同定し,科ごとに個体数と湿重量を計測した。稚魚の食性解析として相対重要度指数IRIを用いたクラスター分析を行ったほか、肥満度CFおよび胃内容物重量指数SCIを求めた。

【結果】
 各調査月に採集された魚種は調査期間を通して12種505個体であった。各月において最も多く採集された魚種は、6月がマイワシSardinops melanostictusの7個体、7月および9月がマフグTakifugu porphyreusのそれぞれ76および41個体、8月がウキゴリGymnogobius urotaeniaの133個体であった。IRIを用いたクラスター分析を行った結果、稚魚の食性パターンは、A)底生性のモクズヨコエビHyale grandicornis、B)肉食性端脚類のメリタヨコエビ科の一種Melita sp.、C)浮遊性のイサザアミ属の一種Neomysis sp.、D)消化物の4つのグループに分けることができた。また、CFおよびSCIには調査期間を通して変化がみられ、7月が特に高い値を示した。

【考察】
 朱太川河口域において出現する稚魚とその食性について調べた結果、降海したウキゴリとウグイTribolodon hakonensis、砂地を利用するネズミゴチとマフグ、回遊で一時的に来遊したマイワシや繁殖期を迎えたヨウジウオSyngnathus schlegeliが生息するとともに、これらは底生動物やプランクトンを摂餌していることが明らかになった。また、隣接するガラモ場における稚魚類の結果と比較したところ、河口域とは出現時期が異なったチカHypomesus japonicusとヨウジウオが季節に応じて生活場所を変えていることが推察された。さらに、CFやSCIの結果から朱太川河口域では調査期間を通して7月が最も稚魚類にとって成育に適した時期であることが示唆された。今後は、四季を通して朱太川河口域に出現する稚魚群の解析を行うことにより季節間の変化や環境中に存在する餌生物を検討し、河口域における稚魚群の摂餌生態を総合的に究明する必要がある。


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