卒業研究成果の紹介(7回目)2017年04月01日

7回目は、楊彩嘉さんによる「イシダタミMonodonta confusaの生活年周期と海藻群落の形成に及ぼす影響評価に関する研究」です。

【目的】
 北海道日本海南西部沿岸ではキタムラサキウニの摂餌活動による磯焼け現象が深刻化している。一方,三陸沿岸ではエゾサンショウやエゾチグサなどの植食性小型巻貝の摂餌活動が海藻群落の形成に影響を及ぼしていることが指摘されている。植食性巻貝は北海道南西部沿岸の磯焼け地帯でも高密度に分布し,当該沿岸の海藻群落形成に何らかの影響があると考えられる。そこで,当該沿岸で優占するイシダタミが海藻群落の形成に及ぼす影響を評価する研究の一環として,本種の生活年周期を明らかにすることを目的とした。

【材料と方法】
 本研究は,北海道寿都町矢追沿岸の磯焼けが発生している岩礁潮間帯を調査の対象とした。2015年12月から2016年11月の間に月1回の間隔で上述の岩礁帯において無作為に30個体のイシダタミを徒手採捕した後,10%ホルマリン海水で固定した。固定したイシダタミについては,水道水を掛け流しした容器で十分に濯いだ後,殻径をノギスにより1/10mmの精度で測定した。また,電子天秤を用いて全重量,軟体部重量および内臓塊重量を1/10gの精度,消化管重量を1/10000gの精度で測定するとともに,消化管重量から消化管内容指数の算出を行った。その後,生殖巣および中腸線を摘出し,通常のパラフィン法により5~8µmの連続組織切片を作成した。これにマイヤーのヘマラウンとエオシンで二重染色し,組織学的観察を行った。さらに,摘出した消化管内容物を生物顕微鏡で観察・撮影した。なお,調査地の水温環境を把握するため,2016年2月から11月にかけて,自記水温計(HOBO Pendant. Onset)を設置し,水温を10分間隔で観測した。

【結果と考察】
 寿都町におけるイシダタミの生殖巣の発達過程は,雌雄とも12~2月は回復期に属し,雌では2~5月,雄では3~4月に成長期に移行した後,5月の成熟期を経て,6~10月には放出期に達することが示された。したがって,本種の繁殖期は雌雄とも6~10月の年1回と推察された。また,イシダタミの生殖巣指数は雌雄ともに7月をピークに迎え,その後は急激に減少した。このことから,本種の放卵放精は,先述のように生殖巣の組織学的観察では6~10月に放出期を迎えることが示されたが,その盛期は7~8月の夏季であることが考えられた。なお,生殖巣指数が雌雄ともに上昇した3~7月は,水温が4.8~19.7℃に上昇する時期にあった。また,生殖巣指数が減少に転じた7~8月は当該海域において水温がピークに達する時期と重なっており,水温上昇が本種の生殖巣発達や放卵放精に関与していることが窺われた。一方,本種の消化管から検出された内容物の多くは珪藻類であり,次いで大型藻類類の配偶体や微小胞子体を含む小片が多く,その他にも砂粒が含まれていた。また, 配偶体や微小胞子体を最も高い割合で摂餌していた月は6月および10月であったことから,イシダタミは,両月に出現するフシスジモク幼胚や小型紅藻類の胞子体を食害している可能性が示唆され,寿都町矢追沿岸における海藻群落の形成に何らかの影響を与えていることが推察された。


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